列車ダイヤについて -- 3ー75 4630万円の振込について考える
2022年5月20日
3ー75 4630万円の振込について考える
新型コロナウイルス対策関連の給付金4630万円が誤って1人の口座に振り込まれたことが、
連日ニュースになっています。
振り込まれた人の行動は、まだすべてが明らかになっていません。捜査が進めばしだいに明らかになると思いますが、
もし、2022年末までに、返還しない場合、所得税が課されるはずです。
一時所得とすると、所得税と住民税あわせて1,000万円近い税金が課されるはずなので、支払いは相当困難になると思います。
振り込んだ側に過失等があるとすれば、捜査は警察にまかせるとして、
法的責任の追求よりも、事故の再発防止を目的とした原因究明を行うことが大事であるという、
日本が公共交通機関の事故原因の調査で行なっている方法が有効に使えるのではないかというのが今回のコラムです。
振り込んだ側を中心に見ていきますが、行政機関は、金融機関に信頼されているというのが、最初の感想です。
私は最近3万円振り込みました。いつも購入している店に在庫がなかったので、初めての店で通販で購入しました。
代金を振り込んだのですが、初めての振込先だったので、入力をした後、固定電話に本人の振込であることの
確認の電話がありました。そのあと、携帯のアプリでワンタイムパスワードを表示したものを入力して、
振込が完結しました。3万円振り込むのに手数料が330円必要でした。私はよほど信頼度が低いのでこのような
取扱だったのだと思いますが、もし私が、4630万円振り込むとするとどうなるだろうと思いました。
口座の残高が不足するので実際に振り込まれることはないと思いますが、
法人あるいは行政機関からの振込に際し、迅速性、簡易性も必要でしょうが、金融機関がもう少し確認を
求めるシステムになっていれば、最初から今回のようなことは起きなかったのではないかと思います。
次に思うのが、正確に何が起きたかの解析が必要だということです。
最初にニュースを聞いた時は、表計算ソフトで確認のために使っていた、合計金額の欄を残したままフロッピーディスク
にコピーしてしまったというような操作ミスかと思いましたが、そうではないようです。
フロッピーディスクを金融機関に渡した後、4630万円振り込むための文書を作成して金融期間に渡したようです。
ワープロの練習のために個人的に作成したというようなことはないでしょうから、
この文書の作成が何のための手続きだったのかが鍵になります。
一部の報道によると、この文書は振込依頼書だそうです。
これがたとえ行政機関の内部で保存するための文書だったとしても、4630万円の金額から考えれば、
業界によっても違うでしょうが、起票した本人以外に上司2段階の承認を得るのが一般的です。
以前なら印鑑を押すのでしょうが、押印手続きを廃止したので、何も見ないことにしたのでしょうか。
振込依頼側の業務処理として、フロッピーディスクと振込依頼書の位置付けがどのように扱われていたのかが
重要です。2重の処理を行なっていることを疑って中止する仕組みがなかったのでしょうか。
金融機関は、たとえ書式が条件を満たしていても、フロッピーディスクで受け取った振込依頼と総合的に
判断して、正当な疑いをもって振込依頼者に問い合わせるというような
取扱をしなかったのでしょうか。
振込側で何が起きたかの解析は、再発防止の上で重要です。
今回の事件について、振込側の対応の視点で見た時、思い出すのが、15年位以前に起きた、
金融機関の株式取引のミスです。
「1株で61万円の売り」とするところを「1円で61万株の売り」と間違って入力し注文したことがきっかけになって、
大量の売り注文が入りストップ安を付けた後、逆にストップ高まで上昇するという事態が起きました。
通常であれば前日の終値を基準として、値幅制限があるのでこのような入力は却下されます。しかし、IPO銘柄であったため、
値幅制限は機能しませんでした。さらに証券会社側もミスに気付いて注文を取り消そうとしたのですが、
取引の連続性を確保するためのみなし取引の仕組みが障害となり取り消しできませんでした。
IPO銘柄は初値がついたところで、値幅制限がかかり、「1円で61万株の売り」の注文は、
「値幅制限の最安値で61万株の売り」とみなして取引を続けるという仕様になっていたので、
「1円で61万株の売り」の注文は存在しない取引とみなされたため、取り消しできませんでした。
IPO銘柄の取引に関するトラブルは、当時の東証で複数回あったのですが、
アローヘッドが稼働してからは聞かなくなりました。2020年10月1日の取引停止のトラブルが、
アローヘッドの最初の大きなトラブルです。
再発防止策として、よく注意して業務を行うようにしましょうというのは効果がありません。
何も注意せずに業務を行うより少しはましでしょうが、時間が経つと忘れます。
特別定額給付金の手続きが迅速に進まなかったので、公金受取口座の登録を進めるというように、
具体的に再発防止の対策とならないような対策を進めるのも効果ありません。
また、何かの手続きにミスが発生した時、それを個人のミスに起因する特異な事象とみなして、
具体的対策をとろうとしない組織の風土も良くありません。
2017年に新幹線の「のぞみ」の台車に亀裂が入るというインシデントが起きました。
台車の側梁には超音波探傷試験が行われていなかったことが問題になりました。逆の言い方をすると、
台車の車輪・車軸には、超音波探傷試験が行われていました。
なぜ行われていたかというと、東海道新幹線の開業初期の頃に、車輪・車軸に問題が発生したからです。
名古屋〜豊橋間を走行中に乗務員が火花を見て、緊急停車しました。
すでに豊橋駅を行き過ぎていたのですが、運転司令の指示で、逆行して豊橋駅に戻り、
すべての列車の運行が修了した後、浜松工場に回送しました。
工場で点検中に自然に車軸がバラバラになったので随分驚いたそうです。
豊橋駅には「こだま」が利用するホームの他に工事用の車両などが利用しているホームがあります。
そこで、すべての列車の運行が修了するまで停めておくことができました。
もし、乗務員が偶然に火花に気づかなかったらどうなったかなど、いろいろ問題になりましたが、
再発防止策は徹底して検討され、車輪・車軸には、超音波探傷試験が行われることになりました。
みずほ銀行で、トラブルが相次いで発生しました。
3月にATMが正常に稼働しなくなったトラブルで、なぜデータ処理が集中する月末に臨時の作業を実施したのかが
問題になりました。この時思い出したのが、1985年3月に起きた、当時の国鉄のみどりの窓口の
マルスシステムのトラブルです。バージョンアップしたマルス301のシステムを3月1日から使用開始したところ、
通信回線などのトラブルが発生して、指定券の発売ができなくなり、完全に復旧するまでに数日かかりました。
指定券の発売は1ヶ月前からなので、3月29日、30日、31日、4月1日の4日分の新規発売がある、
3月1日にバージョンアップしたのはまずかったと言われました。
想像ですが、指定券の予約システムに関わっている人達なので、3月1日にバージョンアップするのは
まずいと誰か事前に気付いたと思います。気付いてもプロジェクトマネージャーに伝えなかったのか、
伝わってもスケジュールを変更しなかったのだと思います。スケジュールを早めるのは困難なので、
春休みやゴールデンウィークを避けると、バージョンアップを5月15日とか、6月1日に延期することになります。
契約の延長や、費用の増大など問題が発生するので、上手いことバージョンアップを行なっても
非難されるくらいなら、一かバチかで3月1日に変更無しでバージョンアップしてみようと
思ったのかもしれません。
プロジェクトのなかで、課題が発生しても、全員で課題を解決するのではなく、自分が非難を受けないようにしようと
いうような組織の風土になるのが良くないです。
福知山線で脱線事故が起きて多くの命が失われました。
最悪の事故ですが、もっと最悪の結果になるリスクはありました。
反対方向から近づいていた下りの特急電車の運転士は、何か異常だという気配を感じて徐行しました。
ダイヤにかかわらず、危険の兆候を感じたら、停車するという当然の事が守られました。
徐行していたので、事故現場を目視して停車しました。しかし、徐行していなければ、
事故現場までに止まることができないリスクがありました。
公共交通機関の事故原因の調査で行なっている方法にも問題がないわけではなく、改善の余地があります。
大きな事故が2回おきて初めて対策が取られるということがあります。
信楽高原鉄道の事故と、福知山線の脱線事故が起きて大きな組織的見直しが始まったとか、
関越自動車道での高速バスの居眠り運転事故の後で、軽井沢スキーバス転落事故が起きたというようなことがあります。
最初の事故の時点でもっと徹底的な対策がとられるべきだったし、
事故が起きる前に十分な対策をとる形にあらためるべきです。
IoTを利用してセンサーのデーターを集め、AIで解析して、事故が起きる前に対策をとる方法が理想的です。
今回の4630万円の振込について考えるなら、直接の事件の動機とは関係ないとしても、
なぜ、振込のデーターを金融機関にフロッピーディスクで持っていったのかということに、多くの人が注目したと
思います。持ち運ぶための人件費もかかりますし、紛失の恐れもあります。
今回の件を機に、オンラインで依頼する形に改めるべきだと思います。
アメリカが作った衛星測位システム、GPSというシステムがあります。
GPS受信機の電源を入れた直後など数分間測位しないことがあります。
衛星測位システムは、複数の衛星が確認されている地点で、未確認の地球上の地点の測量を行なっているので、
衛星から地球上の地点までの距離のデーターだけでなく、衛星の軌道を元にした、衛星の現在地が測量のために必要です。
衛星の軌道のデーター(エフェメリスデーター)は衛星から送られてきます。このデーターの受信に時間がかかるので、
数分間測位しないことがあります。 地上の送信局から、例えばAGPSが使っているような、衛星の軌道のデーターを送信すれば、もっと高速の通信手段を
用いることができます。しかし、最初のGPSシステムは世界中のどこでも利用できることと、
地上局が攻撃を受けてもシステムが停止しないことを重要視して、仕様が決められました。
まずシステム全体の要件を洗い出し、それに基づいて実装していったひとつの例です。
公金受取口座の登録に関連して、今までは、給付金などの振込は世帯単位で行われていましたが、
登録された公金受取口座の情報を利用して、個人単位で振り込むことも可能になります。
これは2重振込や、振込の失念などのトラブルが起きるリスクがある反面、
本当に振り込まれるべき人に給付金を振り込む手続きが可能になるチャンスでもあります。
DVなどの問題があるケースで、世帯主からは世帯全員分と、その他に世帯の一部の人から本人分の給付の申請が
あった場合どのように扱うのか、さらに別居して異なる市町村に居住している場合の手続き
などを詳細に規定しておき、さらにケースバイケースで柔軟に対応する必要があります。
今回のトラブルをひとつの契機として、行政のデジタル化により、どのように「誰一人取り残さない」行政サービスが実施可能に
なるかを、具体的に示していく必要があります。