列車ダイヤについて --  3-18 鉄道運賃の値上げはあるの?

                                      2020年9月10日  

   3-18  鉄道運賃の値上げはあるの?    

 新型コロナウィルス感染症の影響で鉄道の利用者数が減少しています。
 それに伴い、鉄道運賃の値上げが話題になります。

 ひとりの利用者として、値上げは無ければ無いほうが良いです。

 北総鉄道を利用することがあるので、鉄道運賃の値上げよりは個人的には圧倒的に
 鉄道運賃の値下げに関心があります。

 まず、北総鉄道について述べます。
 2−3年のうちに値下げして欲しいと思います。根拠は次のような事です。
 北総鉄道のホームページにある、2019年度財務諸表に基づいて話します。

 固定負債   67,727(百万円) (677億円)
 利益剰余金  △4,414(百万円)  (44億円の累積赤字)
 営業利益    4,160 (百万円)   (41億円)
 当期純利益   2,618 (百万円)  (26億円)
 
 つまり現状が続くなら、2年後には、利益剰余金が、8億円 (8億円の累積黒字)になります。
 固定負債は残りますが、鉄道会社なら設備投資を長期借入金でおこなった結果としての固定負債はあって当然です。
 
 確かに自己資本比率=自己資本/総資産 = 20.8%
 固定比率=固定資産/自己資本 = 410%

 からは、未だ企業の長期的安全性が低いといえる水準です。
 しかし、長期固定適合比率=固定資産/(自己資本+固定負債)= 95.28%は安全の範囲です。


 固定負債の借り先が重要になりますが、有価証券報告書をすべて読んだわけではないので、
 具体的には確認していませんが、会社が発表した文書に、
 「独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構への支払利息」という記述があることから、
 サラ金の借金地獄などということは起きないと思います。
 ぜひ、重要なステークホールダーである利用者の利益を最優先してほしいものです。


 次に、最近話題になっている、鉄道運賃の値上げについてです。

 こちらは、実際の運賃はともかく、鉄道事業法16条に定める、
 「旅客運賃等」の上限の国土交通大臣の認可についてはもっと柔軟であって良いと思います。
 少なくとも、「能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないもの」
 のみを基準として、それ以外の条件を認可の基準にしないほうが良いと思います。

 「3年間赤字にならないと運賃値上げはできないといった国の規定もある。」
 東洋経済オンラインの8月8日のJR西日本長谷川社長のインタビューのなかの発言
 なので、根拠事項は確認していませんが、間違いなく事実です。

 「3年間赤字にならないと運賃値上げはできない」は民間企業の経営を考えると
 おかしな基準だと思います。根拠は次のようなことです。

 継続的な営業損失の発生又は営業キャッシュ・フローのマイナス
 重要な営業損失、経常損失又は当期純損失の計上は、
 継続企業の前提に関する注記(GC注記)を検討することになります。 
 (監査・保証実務委員会報告第74号「継続企業の前提に関する開示について」のなかの具体例の一部)

 また、資産または資産グループが使用されている営業活動から生ずる損益またはキャッシュ・フローが
 継続してマイナスとなっているか、あるいは、継続してマイナスとなる見込みである場合、
 固定資産の減損処理を行う可能性のある、減損の兆候にあたります。
 (「固定資産の減損に係る会計基準」及び「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」)
 
 どちらも、本来の企業経営の姿ではありません。
 企業のステークホールダーの利潤を最大化する責任が企業経営者にある以上、
 企業経営者には実現するための権限も与えられるべきで、
 外部から、3年間赤字になる可能性のある状況をつくるのは本来の姿ではありません。

 このようなコラムを書こうと思ったのは、最近4半期決算で赤字を報告する鉄道会社が増えたからです。
 すべて真実だと思っています。
 会計は、制度上、損失のような会社にとって不都合な真実を優先的に開示しなければならないとなっています。
 端的な例として、債権をもっている会社が貸倒引当金を計上しているからといって、
 当該債権の債務を持っている会社が、借り入れ金の評価額を、返すことができるあてのある金額に
 減額することは認められません。
 固定資産の減損で述べたように、将来の収益の見通しが見込めない時、当該キャッシュ・フローの生成単位の資産に対し、
 損失を計上して、資産の計上額を減額することがあります。
 株式上場時にJR九州も減損損失を計上したことがあります。
 しかし、過去には日本航空が、会社更生手続きを行った際、法律で認められる、資産の時価評価を
 航空機に適用し、更生後の会社の法人税の納付額の減額をおこなったことがあり、
 会計制度の脱方的な運用という批判をあびたことがあります。
 万が一、とにかく赤字を計上しないと、運賃値上げの申請に悪影響を及ぼすというような
 事情があるとすると、それは制度自体がおかしいと思います。

 そして話題が変わりますが、長崎新幹線(九州新幹線(西九州ルート))は、
 武雄温泉〜諫早間の工事開始に続いて、武雄温泉・長崎間の整備がおこなわれています。
 工事開始にあたって、どれほど鉄道利用者の意見を集約したのか、疑問があります。
 整備新幹線に国の予算が投入されるのなら、全国民の意見を聞くことにも合理性があります。
 50年近く昔に制定された法律に基づいて、いろいろ決定された既存の決定事項を前提とし、
 さらに一部でも設備を建築し、既成事実を作って、プロジェクトを続けていくような
 感覚を受けます。いっさいの設備を建築する前に、関係者の意見を集約すべきだったと
 いう気がします。

 これは鉄道の話題ではありませんが、レジ袋有料化が行われて以来、コンビニに行く時、
 マイ・バッグを持っていきます。しかし、店員さんに袋詰めを頼むのか、自分で行うのか、
 どのタイミングで行えば、絶対万引きの疑いをかけられることがないのか、など基本的な
 ルールがわかりません。詳細なマニュアルはあるのに、基本的なルールがないというのは、
 本来の姿ではありません。

 高速バスの話題ですが、ダブルシートを適用する会社がでてきています。
 料金1.5倍位で、2席分利用できます。鉄道の場合、一人で同一区間、同一方向、同一列車の
 複数の乗車券類は購入できません。このようなことも含めて、
 鉄道運賃の決め方をできるだけシンプルにすべきです。国土交通省は、
 「鉄道事業等の運営を適正かつ合理的なものとすることにより、鉄道等の利用者の利益を保護するとともに、
  鉄道事業等の健全な発達を図り、もつて公共の福祉を増進することの目的」に著しく反することには、
 毅然とした強い指導力を発揮すべきですが、
 あまり細かなことには介入すべきでないと思います。

 もし、鉄道会社のTwitterに、ダブルシートを発表し、お金のある人にだけ感染症対策を提供しますと書き込めば、
 大炎上するでしょう。しかし、案外、鉄道を利用するのは、会社の出張費や通勤費で利用するので、
 料金は実はいくらでも良い、混雑は嫌だのような本音を普通の時に書き込む人はいないでしょうが、
 大炎上させれば本音を聞くことができるかもしれません。

 過去に制定された規則や、慣習に忖度していては、新しい時代の制度を決めることはできません。
 鉄道を利用する人も、利用しない人も、税金が投入される限りにおいて、
 鉄道事業のステークホールダーといえます。
  1970年台に新規設備として設置された設備・構築物(例えば電化設備)が次第に
 設備の更新時期を迎えます。毎年自然災害で破壊される設備を修復するのが、正しい姿か
 どうかわかりません。廃止するか新幹線並の自然災害に強い設備にして、運休を減らすことが
 公共性を考えた時必要かもしれません。


 新型コロナウィルス感染症が、諸々の鉄道業界の課題を明らかにしたととらえ、
 鉄道運賃の値上げに際しては、鉄道の専門家だけでなく、専門的知識をもたない幅広い一般の人の意見を集約して、
 必要なら新しい法律を制定するくらいの姿勢で鉄道業界にイノベーションを起こしてもらいたい
 と思います。