各種のコラム --  3ー159 AI時代の仕事のやり方

                                      2025年2月1日  

    3ー159 AI時代の仕事のやり方	
    
   AIは人間を追い越すか、AI時代の仕事のやり方はいかにあるべきかが話題になります。
  どうするのが良いか考えてみます。結論は、明白です。私が考えてわかるわけがありません。
  しかし、考えないほうがよいということにはなりません。
  むしろ皆が自分の事として考える必要があります。私の考えは次のふたつです。 
  
  1.学習をする
  2.過去のデーターを検証する
  
  AIの分野は広いので、いろいろなやり方があり、いろいろなモデルがありますが、一般的に、教師データーなどを
  使って、処理結果が正しくなるように、各ノードの最適のパラメーターを計算して、モデルを作成するまでの過程を、
  トレーニング(学習)と呼び、検証を終えた後、出来上がったモデルを適用して、新規のデーターを処理する過程を
  インフェレンス(推論)と呼びます。
  
  車の運転を考えてみます。自動運転のAIモデルを作るのは時間がかかります。低速で町中を走る乗合バスや
  高速道路を走るトラックなど、目的別にデーターを集めてトレーニングするのは時間がかかります。
  しかし、一度モデルが出来上がると、同じ路線を走る乗合バス用のモデルはコピー・ペーストすれば、
  すぐに他のバスでも使うことができるようになります。
  一方、人間が車を運転する場合を考えてみます。自動車教習所に通って、1ヶ月位練習します。
  それで、町中から高速道路も走ることができるようになるので、AIのトレーニングと比較して、
  かなり効率的です。しかし、一人が運転できるようになったとしても、コピー・ペーストして、
  他の人も運転できるようになるわけではありません。
  いままで、人間が練習する学習すると言っていたことの多くは、実は学習済モデルを記憶することであって、
  人間が車を運転しているのは、学習済モデルの中から最適なものを選び、実際の状況を推論していると
  いうことができます。自動車教習所でいえば、過去の教習データーなどを使って、
  どのような教え方をすれば効率的に教習を行うことができるかの新しいモデルを作成するのは、
  AIでいうところの学習ということができます。
  IT業界でいえば、大学院などで、新しいITの技術を研究している人は、学習をしていると言うことができますが、
  APIのマニュアルを読んで、コーディングをしているだけの人は、研究者の成果のなかから、
  最適のモデルを選択して、推論を行っているだけと言えます。推論だけなら、生成AIで人間の
  10倍、100倍の速度で行うことができます。AIにおいて強化学習も含めて、推論の重要性が注目されているので、
  学習と推論と明確に分けられるものではありませんが、AI時代では、多くの人が仕事のなかで、心構えとして、
  学習を行い課題を解決するための、新しいモデルをつくることに時間をさく必要があります。
  
  台風の進路は、流体力学の偏微分方程式を解いて、現在の状況を初期条件として、時間が進む方向に積分して、予測します。
  これとはまったく異なるアプローチで、過去の台風の結果をつかってAIで学習し、進路予測のモデルを
  作る方法があります。台風の勢力の予測では誤差が大きいなど、まだ課題はありますが、
  AIモデルの画期的なところは、完成したモデルを使う推論なら、パソコンでも気象庁のスーパーコンピューター
  並の精度で計算ができることです。海上の船などで、気象庁の観測データーに加えて、自社の航行中の船舶の
  データーを入力して、進路予測のモデルを使ってパソコンで進路予測して、結果と比較すれば、
  気象庁の予測を補うような進路予測が可能になったり、多くの人が観測と予測に参加することで、
  画期的に技術が進歩することがあります。
  
  過去の台風のデーターが貴重なように、コロナ感染症のデーターも貴重です。
  コロナ禍の際は、頻繁にコロナ感染者数の予測が発表されました。
  感染症の初期に、厚生労働省のクラスター対策班が、重篤患者が約85万人に上り、
  半数が亡くなる恐れがあるというの試算を発表しましたが、良いほうにはずれました。
  また、2021年の第5波の際には、東京都の日々の新規感染者の数が、5,000人から10,000人になる
  という予測もありましたが、実際は、新規感染者の数が、5,000人を超えましたが、8月中旬から減少に転じました。
  予測した人の責任は問題にすべきでありませんが、予測が良いほうにはずれたから結果オーライで終わりにすべきではありません。
  台風の進路の予測と同じで、過去のデーターを使って、今こそ、感染者数予測のモデルの改善をおこない、
  次の呼吸器感染症に備えるべきです。
  
  失われた30年がよく問題になりますが、IT業界に限ると、私は失われた20年だと思っています。
  1990年代は、カーナビやデジカメなど、世界初の商品が発売されました。カーナビは、斜面でも常に
  目標をとらえ続けている戦車の大砲を見た自動車会社のエンジニアが、慣性センサーを使って試作モデルを
  作ったのが始まりです。その後、GPSを使って大幅な精度の向上が図られました。
  これは新しい技術のモデルをつくる学習といえますが、2000年になって、ITバブルが弾けた頃に、
  研究予算が大幅に削減され、製品になるかどうかわからない研究は打ち切りになりました。
  ちょうどそのころに、e−Japan戦略が始まりました。省庁の書類審査に通るような企画書と
  実際に製造などをおこなうオフショア企業への発注書の書き方を学んだエンジニアが、
  技術的な分野での学習をおこなうことなく、マニュアルに従って失敗しない仕事のやり方を練習しました。
  中央省庁の側も、予算の概算要求にすぐ使えるような企画書を作る企業と取引をおこない、
  ほとんど誰も使わないソフトウェアーをつくれば問題が発生しないと考える人もいました。
  それから20年経っていますが、行政のデジタル化が予算獲得や実質的な天下り先の確保につながって
  いないか、過去のデーターも含めて検証する必要があります。
  データーベースのスケールアップ(垂直スケール)とスケールアウト(水平スケール)の言葉は知っていても、
  実際にRDBの運用の経験がなくて、法定の保存期間が終了したデーターは消去するという仕様書を
  つくるエンジニアがいます。データーの整合性を維持したままデーターの一部を消去することの
  難しさがわかってなく、ハードウェアーを増強して、永久にデーターを保持してこそ、
  業務のデジタル化の成果が得られることを説明できない人がいます。
  あるいは、わかっていても例えばコロナ感染症が流行した非常事態に対応するためのシステムと位置づけ、
  ある時点で運用を停止し、また何かあったら新規の予算で、前回の仕様書をコピーペーストして、
  新システムの企画書として提出し、システム構築を行うほうが、大きな売上がえられると考える人もいます。
  
  巨大地震が今後30年以内に発生する確率が「80%程度」などの発表がありますが、どのように対処すべきか
  具体的にイメージがわきません。地震の発生確率を予測するという過去の仕事のやり方を引き継ぐのではなく、
  過去の地震のデーターに基づいて、地震が起きても建物の倒壊などの被害を防ぐという視点に変える必要が
  あるかもしれません。海洋プレートのずれで起きる地震では、津波の被害が大きいので、
  建物の倒壊などの被害を防ぐだけでは不十分ですが、都市型の断層のずれで起きる地震に対しては、
  建物の倒壊と火災を防ぐことで、被害を大幅に軽減できる可能性があります。
  そして何より、すでに被害が起きた能登半島地震の復旧・復興に破格の予算を迅速に支給しなければなりません。
  お金だけで解決することではありませんがお金が重要なのは確かです。
  地方創生というなら、東京に住み続けたい国家公務員をお金をかけて役所の建物を建てて、無理やり
  地方との2重勤務にしなくても、総務省の幹部に県知事に立候補してみなさいと言えば完了します(?)。
  予算を使うべきなのは、自然災害に対する防災と、被害地域の普及・復興です。
  そして、この政策は、外交上も重要です。地震が起きても建物の倒壊などの被害を防ぐ技術があり、
  万が一被災しても、生存者捜索のすぐれた技術や、迅速に避難所を設置し運営する技術があれば、地震が起こるおそれがある国は、
  G7かグローバル・サウスかとかなどには関係なくとにかく国際協力を希望します。
      
  消費税の税率を下げることが景気回復の起爆剤だという人がいます。消費税はそれまでの贅沢品に課税されていた
  物品税が廃止された後、1989年から導入されました。物品税の税率は15%一部の貴重品は30%でした。
  導入当時の消費税は3%で一部非課税になるもの以外のすべての商品に適用されました。
  もし仮にさらに消費税率がさらにあがって15%になると物品税の税率と変わらなくなり、広く薄くという
  消費税導入当時の考え方から離脱しています。ですから、消費税の税率を上げることには絶対反対で、下がる
  ことは大歓迎です。しかし、一部の政治家が主張している、期間限定の軽減税率の導入には反対です。
  軽減税率適用に関する、紙の新聞と電子版の新聞のセット販売に関する、国税庁のタックス・アンサーの
  答えを抜粋します。
  ”軽減税率の適用対象となる「新聞の譲渡」とは、一定の題号を用い、政治、経済、社会、
  文化等に関する一般社会的事実を掲載する新聞(1週に2回以上発行する新聞に限ります。)
  の定期購読契約に基づく譲渡をいいます(消法2①九の二、別表1二)。
   他方、インターネットを通じて配信する電子版の新聞は、電気通信回線を介して行われる
   役務の提供である「電気通信利用役務の提供」に該当し、「新聞の譲渡」に該当しないこと
   から、軽減税率の適用対象となりません(消法2①八の三)。
    このため、ご質問のように紙の新聞と電子版の新聞をセット販売している場合には、セット販売の対価
    の額を軽減税率の適用対象となる「紙の新聞」の金額と、軽減税率の適用対象とならない
    「電子版の新聞」の金額とに区分した上で、それぞれの税率が適用されることとなります。
    (注) 例えば、「紙の新聞」は新聞販売店、「電子版の新聞」は新聞本社が提供する契約となっている場合、
    それぞれ異なる取引として個別に課税されることになるため、対価の額は区分され、
    適用税率も取引ごとに判定されることとなります。”
    
  新聞の宅配に軽減税率を適用したのは、業界からの集票が目的だったとか、新聞の政権への批判を
  和らげるためだったというのは、推測にすぎませんが、軽減税率を適用すると、軽減税率が適用されない、
  出版業界とか、インターネットのサブスクの事業者と区別するための規定の定義と事務処理が際限なく
  複雑になります。また料金の計算期間が月の切れ目と一致していない継続する契約や、使用量を自動計測していて、
  負荷の分散のために午前0時に計測しているとは限らない場合など、期間限定の軽減税率が導入された
  場合の按分の計算は課税の公平性を担保するかたちで行わないといけないので、必ずこれなら
  公平とみなすという根拠となる規定が必要になります。
  選挙の集票のために、期間限定の軽減税率の政策をかかげるのではなく、
  消費税導入当時の、広く薄く課税するという消費税全体の法体系を考慮して政策を決める必要があります。
  
  中国のAI開発企業、DeepSeek(ディープシーク)が話題になっています。
  とくにLLMのDeepSeek-R1は、最先端ではないGPUを使って安価で高性能のため、注目されています。
  私が注目しているのは、多くのAIがCUDAというNVIDIAのアーキテクチャーの上で、Pythonの
  プログラムでC++のライブラリーを呼んで、学習や推論を実行しているのに対し、
  DeepSeekは、PTX(Parallel Thread Execution)という
  アセンブラ言語レベルのチューニングで性能を引き出している点です。GPU間のデーター転送についても、
  一部のカードにデータ圧縮やデーター転送の機能を集中的にもたせるなど工夫されています。
  具体的にやっていることは違いますが、20世紀に日本のメーカーがIBM互換機を作っていた
  時代を思い出します。日本のメーカーはアメリカで訴訟が起きた後、日本の省庁の指導もあって、
  技術開発を中断しましたが、中国はいくら圧力がかかってもやめないと思います。
  NVIDIAのアーキテクチャーは、学習も推論も基本的にフローティングポイントの32ビットで
  計算しますが、特に推論では、フィックストポイントの4ビットでも良いのではないかというように、
  もっと安価に計算できるのではないかという指摘は当初からありましたが、他社より1ヶ月でも早く
  製品を出荷したいので、各社はNVIDIAの最新のGPUを購入して、CUDAのアーキテクチャー
  を使って計算していました。しかし、中国は、米中貿易戦争で最新のGPUが購入できなくなったことが、
  独自路線に舵をとる動機になりました。これは私の推測ですが、AIの米中対立は、中国が
  独自のGPUかAI用のASIC(Application Specific Integrated Circuit)
  をつくってISA(Instruction Set Architecture)のレベルで、
  NVIDIAに依存しない技術を確立し、世界的にアメリカ陣営と中国陣営に別れて対立するレベルまで
  進むと思います。その時は、半導体の製造技術が勝敗の鍵になるのはもちろんですが、グローバルサウスの
  優秀で比較的安価な人件費で使うことができるAIのエンジニアをどちらの陣営が
  どれだけ確保するかも重要な鍵になります。そして、アメリカは不思議な国で、DeepSeekがオープンソースなら、
  大統領が何と言おうが、業務レベルで使ってみようという人が、現れる可能性が十分あります。
  どちらのハードウェアーでも稼働するAIモデルをビジネスにする可能性があります。
  20世紀の東西対決は、第二次世界大戦終了後は核戦争は起きなかったし、人工衛星打ち上げのニュースを
  見ているだけだったともいえますが、米中AI対立は、自動運転など、もっと日々の生活に深く関連します。
  日本が、アメリカ陣営になるのはほぼ確実で、独自のAIプロセッサーを作ることは少ないでしょうが、
  アメリカから導入した技術を、器用にミスなく実行するだけでなく、例えば製造系のITエンジニアなら、
  RISC−Vのアーキテクチャーを理解し、追加の独自インストラクションを考案し、
  コンパイラーを修正して、アプリの性能改善ができるような技術を身につける必要があります。
  自分はArmだという人はそれでもかまわないのですが、学習済のモデルを導入して、リスクの低い
  事業だけを行うだけでなく、いつ製品化できるかわからない技術の研究開発にもっと投資する必要があります。
  アベノミックスに基づく異次元の金融緩和には一定の効果があったのは確かですが、いくら金融業界に潤沢な資金を
  提供しても、技術開発が進んでイノベーションが起きるわけでは無いことも証明しました。
  世界的に、先端半導体、アーキテクチャー、AIモデル、アプリ、参加する開発者のコミュニーティーなどの
  うち、キーストーン種となるものを中心にビジネスは周ります。
  特定の企業に、補助金を出したり資本参加するのではなく、20世紀に「軽自動車」の規格をつくって、
  マイカーブームの方向性を示し、税制の優遇も行ったように、政策の方針が伝わるようなメッセージを発して、
  実際の製品の開発はメーカーにまかせるほうが良いと思います。
  また大学の専門家が、研究にお金が必要だといっているのなら、文科省の事務官が申請書類の文書で
  審査するのではなく、欲しいというだけ予算をつけるほうが(?)事務経費が削減されて、
  イノーベーションも生まれて経済効果が大きいかもしれません。
  
  アメリカに、Golden Ageが来るという人がいます。アメリカがGolden Ageだったと言われるのは、
  1920年代と1960年代です。そういうことを言う人が現れたということは、
  その後の時代の流れにも共通点があるかもしれないので、過去のデーターを検証する必要があります。
  
  AIの米中対立などこれからどのような時代になるか不明で、どのように対応すべきかについて
  企業も政治も行政も明確な答えを持っていないのなら、皆が自分の事として考える必要があります。