各種のコラム --  3ー156 DXをどのように進めるべきか?!

                                      2025年1月10日  

    3ー156 DXをどのように進めるべきか?!	
    
   DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉を日常的に聞くようになりました。
  DXを推進する必要があるというのはよく聞きますが、どのように進めるかは、あまり明快でありません。
  21世紀になったころ、2005年までに世界最先端のIT国家となるようブロードバンドの普及などを推進する
  という言葉を日常的に聞いていました。世界最先端のIT国家を目指すために、いつもは「コンピューター
  は役にたたない。ITエンジニアは話が通じない」と言っているような人が集まって会議を開いていました。
  個人的な好みもあったと思いますが、ブロードバンドの普及などを推進するに代表されるように、
  IT国家の構築ということを、新幹線や高速道路などのインフラを整備する感覚で、話していて、
  おおむね5年で更新されるIT機器になぜ投資するのか、理解されていませんでした。
  
  そして会議で、自分もコンピューターを使っているといって、必ずでてくるのが、「かな漢変換」の話でした。
  欧米の国では、コンピューターが広まる前から、タイプライターを使うのが一般的だったので、
  キーボードに違和感がなかったのに対し、日本はキー配列がわからない人が、使うことが多かったので、
  コンピューターというと、「かな漢変換」に代表される、データー入力の話になっていましたが、
  生まれた時からコンピューターとキーボードがある世代になれば、状況は変わると思っていました。
  
  それから20年経って、DXを推進するという会議を開くと、IT機器を使って、動画を閲覧したり、
  SNSで情報交換している人が集まって、フリック入力の話をしています。
  業務をどのようにデジタル化するかにはまったく関心が無いという点では、20年経っても変わっていません。
  業務のデジタル化の方針が立てられない人が多数の国で、ロジック半導体の設計ができるのかという
  疑問をもっています。DXの推進はひとまずそこそこにして、
  半導体ファウンドリーや半導体製造装置、パワー半導体、インバーターや太陽光発電、イメージセンサーなど、得意な分野に
  集中するほうが、日本の経済に資すのではないかとも考えます。
  富岳の半導体を設計したような優秀な人がいますが、DXの推進はそれだけでは完成しません。
  
  業務のデジタル化に関心が無いということでは、20世紀も21世紀も変わらないかと言うと、
  むしろ20世紀のほうが、業務のデジタル化のメリットは理解されていました。
  鉄道の指定席券を発券するのに、予約センターの中華料理店の丸テーブルのような台に乗っている
  台帳を取り出して記入して、元の位置にストライクで投げ返すとともに、予約情報を電話で駅の販売窓口に
  伝えるより、コンピューターで管理するほうが良いと皆思っていました。
  初期のシステムは、予約結果が駅の窓口のプリンターに印刷されるのを見て、手書きで、指定券を発券していましたが、
  指定券を直接印刷できるプリンターが整備されて、ミスが減少しました。
  業務のデジタル化のメリットは理解されていましたが、多くの人が、一部の特別な領域の業務で、
  自分の業務とは、無関係だと思っていました。
  
  20世紀の終わりに、Windows95が発売され、多くの人がコンピューターを買いました。
  個人的には、ネットサーフィンに使い、仕事では、連絡ツールかプレゼンテーションの原稿の作成に使い、
  業務の効率が大幅に上がったかというと、手書で資料を作ったほうが早いという人もいました。
  生成AIで、短時間でプレゼンテーション資料が出来たり、多言語翻訳が簡単にできるようになりました。
  21世紀になって、機械図面をCADで作成し 流体力学の流れの解析(CFD)の利用が広まり、
  設計などの業務の効率は飛躍的に向上しました。それに対してオフィス業務の効率はどれほど向上したのか
  あまり、はっきりしません。
  
  IT企業と言うと、マグニフィセントセブンに象徴される巨大資本がとりあげられますが、
  DXをどのように進めるべきかという点では、個人が業務のデジタル化をどのようにとらえるかが
  重要な要素になります。
  
  ITシステムを使っている、個人がどう思うかが大きいということに関して、ふたつの事例をとりあげます。
    
  コロナ禍の最中に感染状況入力システム(HER−SYS)が使われましたが、診察終了後にデーターを入力
  するのが大変だということがたびたび報道されました。実際大変だったのでしょうが、
  ここでも、日本では、業務のデジタル化というと、どのようにデーターを入力するかという話に
  なるという状況でした。テレビのニュースで、HER−SYSに入力するより、季節性インフルエンザのように、
  手書きの資料で、1医療機関あたりの感染者数を管理するほうが良いといった医師もいました。
  そして、コロナ感染症が「5類感染症」になると本当に、1医療機関あたりの感染者数で管理するように
  なりました。最近、咳止め薬などが不足しているというニュースがあります。
  たとえ、HER−SYSで感染状況を把握していても、関係なく薬の不足は起きたのかもしれませんが、
  咳止め薬のような一般的な薬の流通の管理は、業務のデジタル化でもっとも業務の品質向上が
  期待できる分野のように思います。
  昨年から、アマゾン・ファーマシーのサービスが始まりました。アマゾンは、電子処方箋の情報を
  受取り登録されている薬局を検索し、予約するだけで、電子処方箋自体があまり広まっていないので、
  当分は大きな状況の変化はないでしょうが、大規模なクラウドを運営する企業が薬の流通に関わると、
  どのような変化が起きるか、これからの状況の変化に注目です。
  HER−SYSのシステムについては、データー入力が大変だということが注目されただけで、
  コロナ禍の最中にどのように活用されたのか、蓄積されたデーターがこれからのコロナ感染症の予防に
  どのように活かされるのかは、何もニュースになりません。
  アマゾン・ファーマシーは世界的にサービスを拡大するでしょうから、長期的に電子処方箋の情報
  をどのように活用するかについて十分に検討しているはずです。
  DXを推進するための会議では、フリック入力の話をするのではなく、長期的にデジタル・データーを
  どのように活用するかの話をする必要があります。
  
  今年から、病院間で情報共有できる、電子カルテ情報共有サービスの本格運用が始まります。
  データ保存期間は、最短3か月~最長5年間です。データの最長保存期間が、5年間というのがどのような経緯で
  決まったのか調べてみましたが、あまり情報がありません。現在紙のカルテの保存期間が5年間だからかもしれません。
  DXを推進するにあたって、デジタル技術の特性を理解し、現行のアナログ的な業務を
  そのまま移行するのではなく、デジタル技術の特性が活用できる業務の進め方を考える必要があります。
  電子カルテ情報共有サービスの利用者である、医療関係者が、目先のデーター入力だけに注目するのではなく、
  最終的にすべての患者にどのような利点があるかを検討しなければなりません。
  電子カルテ情報共有サービスの基盤システム構築のための予算措置の議論に終始することなく、
  最終的な目標であるすべての患者にとっての利点まで含めて検討する能力が必要になります。
  
  医療分野に限らず、小売業でも、どのような方針でDXを推進しているのか、疑問な事例があります。
  全国チェーンのスーパーで、ショッピングモールなどに積極的に出店しています。
  商品価格やサービスには不満はないのですが、DXの推進はどのような方針で行っているのか不明です。
  数年前からみると、いくつかのアプリがリリースされています。その度に店でキャンペーンを行っているので、
  導入しましたが、ほとんど使うことはありませんでした。
  そして、昨年あたりから、ネットスーパーとも共通して使うことができる、新しいポータルサイトに
  連携するアプリがリリースされ、買い物の際、それまでは前払い式の料金でカードで支払っていたのが、
  新しいアプリで、バーコードを表示して、しかも直接クレジットカードから、引き落とされる形になり、
  店で何度かキャンペーンを行っていたので、新しい支払い方式にしました。
  前払いチャージ式のカードは、クレジットカードと一体だったので、5年毎にクレジットカードが
  新しいカードになる時の手続きが面倒でしたが、新しいアプリを使えばそのような面倒もありません。
  アプリを起動して、支払い画面に移って、バーコードを表示するまでの手順は、
  PayPayと同じですが、とにかく遅いです。PayPayでは、起動に2秒で支払い画面の表示に1秒
  位で、3秒弱でバーコードが表示できるのですが、このスーパーのアプリは、起動に数秒かかります。
  さらに支払い画面の表示に数秒かかります。アプリを起動するだけで、バーコードが表示される
  楽天Payと比べても遅いです。店の外の駐車場では、電波強度の棒が5本なのに、
  店内では、2−3本になることも関係しているようです。
  店員の人は、自分が買い物の時には、このアプリを使っていないのかという疑問があります。
  スーパーで買い物をする時、野菜や精肉のように、その日の商品を見て買いたい物と、
  歯ブラシやシャンプーのように以前と同じものを買いたい物があります。
  歯ブラシは、普通やコンパクトややわらかめなど微妙に違うので、同じ物を使いたいです。
  特に困るのは、ステルス値上げなどのために、商品やパッケージが変わった時です。
  ECサイトのように後継商品のガイドがあると便利ですが、商品棚で探すのは大変です。
  アプリで、商品の購入履歴が表示されて、クリックしてカメラを商品棚に向けると、
  同じ商品を選択してくれるような機能があれば、完璧ではなくても面白いから使ってみよう
  という気になります。あるいは、お米が売り切れになった時、店での販売数や、入荷予定の
  情報があれば見てみようという気になります。農水省の、在庫は十分にあるので、
  買いだめなどしないようにという一般的なコメントは、不安と不満を増幅するだけです。
  台湾のように、具体的にどこの薬局にどれだけマスクがありますという情報がでると、
  消費者も無駄な買いだめはやめようという気になります。お米はかさばるし重いし、
  精米後は新鮮なほうが良いので、在庫をあまり置かないようにするのは問題ありません。
  突然何袋も買う人があらわれると、品切れになります。しかし、
  デジタル技術で、詳細で正確な情報を提供することで、不安をやわらげる必要があります。
  しかし、アプリを起動すると、遅い上にキャンペーン広告が表示され、
  さらに支払い画面の表示に時間がかかるでは、何も使ってみようという魅力がなく、
  不満だけがたまります。そして、商品の棚に指定の商品で、アプリで値引きクーポンの受取が可能という
  表示があります。270円の商品で支払時に50円のクーポンが使えるので、使ってみました。
  新しいアプリを立ち上げて、クーポンの一覧を表示したのですが、利用可能なクーポンはありません
  と表示されました。店内が比較的すている時間帯だったので、すぐに店員さんが見つかり
  丁寧に教えてもらえました。それでも大変でした。まず新しいアプリではなく、以前の買い物アプリ
  を立ち上げます。そのアプリのクーポンの一覧表にも表示されないので、
  まずレジで商品のバーコードを読みます。支払いの前に、買い物アプリで
  「クーポン・会員コードを使うバーコードを表示」のボタンをタップし表示された、自分のアプリを
  特定するバーコードをレジに読ませると、買い物した商品のうちクーポンを使うことが
  できる商品が表示されるので、レジの液晶画面でOKを押します。そして携帯の表示にしたがって
  支払いバーコードを表示すると、私は、買い物アプリではなく、新しいアプリで支払う登録をしているので、
  エラーになります。そこで、新しいアプリを立ち上げて、いつものように支払いのバーコード
  を表示すると、50円のクーポン額を控除した支払い額が表示され無事操作が完了します。
  
  DXを推進するための会議で、自分はITに詳しいと思っている人で、現行のシステムの操作方法
  を話している人がいます。操作マニュアルに沿って、素早くIT機器を操作することができるだけで、
  業務をどのようなITシステムで行うのが効率的かについては、考えを持っていない人が多くいます。
  20世紀にアナログ的に業務を行っていた時には、業務経験が豊富な人は、業務全体の流れを把握していて、
  しかも日本人は全般的に優秀な人が多かったので、システム開発の会議で、話を聞くことがありました。
  しかし、現在は、何らかのITシステムを使って業務を行うのが一般的で、
  素早くミスなくIT機器を操作することがIT技術だと思っている人が多くいて、
  話を聞いてもシステム開発には役にたたないことがあります。
  ベトナムなどの優秀なオフショアのIT開発企業を利用できるから、問題ないと考える人も
  いますが、実際にITシステムを利用して業務を行う企業でどのようにDXを推進する
  かの方針が確立していないと、問題は解決しません。シリコンバレーのIT企業のように
  優秀な留学生を雇用して、将来CEOになる道も開かれているなら状況はかわりますが、
  各企業のなかで、DXを推進するための方針を立てる必要があります。
  
  
  東海道新幹線を建設した時の、国鉄の技師長の島 秀雄さんは、
  「突出した技術だけをツマミ食いしてもモノは出来ない」と言いました。
  80年以上昔のことなので、現在では関係ないかと言うと、そうも言えません。
  ITエンジニアの中には、海外の技術をツマミ食いして、知識として知っているだけで、
  DXをどのように推進するかについては、何も考えを持っていない人がいます。
  
  どのようにするのが良いかは、すぐにはわかりませんが、これは良くないという事例はあります。
  コロナ禍で一律10万円の給付をした時、マイナポータルを利用した申請には混乱がありました。
  それなら、次は、4万円の定額減税でまた新しいシステムを構築するのではなく、高額所得者を除く
  すべての人に、一律4万円の定額給付をマイナポータルを利用してスムーズに行うという
  考え方にならなければいけません。
  地方自治体のシステムのガバメントクラウドへの移行も、業務のデジタル化をどのように進めるかの
  視点が失われて、クラウドシステムの構築のみに注目すると、
  今までの業務のノウハウが失われる恐れがあります。
  
  島 秀雄さんは、「技術者は人類の知見に貢献すべきです 個人や国の名誉を求めてはいけない」
  とも言いました。
  戦艦大和は、突出した技術だったかもしれませんが、人類の知見に貢献したとは言い難いです。
  DXを推進してシステムを構築することが目的になってはいけません。
  DXを推進することで、いかに多くの人の生活が便利になるかの視点を
  常に持っておく必要があります。
  ショート動画を編集したり、ドローンとLEDをつかったショーなど、
  データーを入力して編集して表示するのは、得意な人もいますが、
  行政のデジタル化や、医療システムや、在庫管理などの業務管理システムでは、蓄積したデーターを
  具体的にどのように分析して活用するかの方針が必要です。
  例えば鉄道なら、沿線の風速を測って、常に変動する風速から、10分後など、線区ごとの特性を考慮して
  駅の間で停止する列車が無いように運転規制するためのAIシステムを開発するなど、
  各々の業務に基づいた具体的なデーターの活用方法を、システムを構築する前に、
  まだシステムが稼働していない状況のなかで、論理的に分析し議論し、
  システム設計に結びつけることができる人を育てる必要があります。