各種のコラム -- 3ー155 2025年のIT業界を展望する
2024年12月25日
3ー155 2025年のIT業界を展望する
2025年(来年)のIT業界を展望します。
日経クロステックでは5人の有識者を招き、2025年にブレークするITインフラ技術を選出する
「ITインフラテクノロジーAWARD 2025」を開催しました。
有識者の見解では、システム開発の幅広いフェーズで生成AIが利用されるようになります。
専門家の見解だから、かなり根拠がありそうですが、それでも必ずその通りになるというものではありません。
それでは、私の展望はどうかというと、
どのような製品がバズルか、どのような企業が躍進するかという観点でみると、私の展望が当たる確率は
ほぼゼロです。来年の話をすると鬼が笑うといいますが、IT業界で1年後に起きることを正確に予想できる人はいません。
それなら話さないほうが良いかというと、そうではないと思っています。
いろいろな人が、勝手に予測するほうが良いと思うので、このコラムを書きます。
生成AIやデーターセンターが話題になりますが、この流れはひとまず終焉を迎えて、
モバイルを中心とする領域に関心が移るというのが私の主張です。
生成AIやデーターセンターがなくなるということではありません。今後も成長します。しかし、2年前に
ChatGPTが登場した時のような、あっと驚くようなことはもう起きない。ChatGPTが登場し、
グーグル検索に、GeminiのAI検索が先頭に表示されるようになって、世界の大勢はすでに決まっているように
思います。インターネットがモデムから光回線になったような、技術の進歩はもちろん今後も続きます。
長い目で見て話題の中心になるのは、モバイルの領域だと思います。
注目している1つ目は、米国司法省による、グーグルの事業分割案です。ただ訴訟の内容に注目しているというより、
Chromium(クロミウム)の技術がどのような形で使われていくかに注目しています。
クロームのブラウザーの中心となるChromium(クロミウム)は、フリーかつオープンソースの
ウェブブラウザ向けのコードベースであって、クロームや、マイクロソフトのエッジのブラウザーのレンダリングエンジン
として使われています。そして、Chromebookや ChromeOSFlexなどの、ネーットワーク前提の
OSの技術とも関わっています。
携帯電話の分野では、世界のシェアでは、アンドロイドのほうが、アイ・フォーンより多いのですが、
タブレットは、ほとんどアイ・パッドが使われています。
Chromebookでは、アンドロイドのアプリが動き、ChromeOSFlexは、
そのコンテナの中で、DebianのLinuxを稼働させることができ、コマンドプロンプトから、
Linuxのアプリを導入すると、画面のアイコンを起動することで、ChromeOSFlexのアプリも、
Linuxのアプリも、同じデスクトップの別のウィンドウで動かすことが出来ます。
つまり、PCで作ったアプリをそのまま動かすことができます。
現在、PCで作ったアプリと同じ働きをする、アンドロイドのアプリを作ろうとすると、
一からコーディングするに近いレベルで面倒です。タブレットで、マルチウィンドウをサポートして、
PCで作ったアプリをそのまま動かすことができれば、生産性が向上します。
例えば、フィールドワークで、データーを採取すると、まずSDカードなどに保存して、ノートブックPC
に移して、PCで作ったアプリで解析します。そして、リアルタイムの解析を行う段階になると、
アンドロイド用のアプリを作成して、解析します。ラズベリー・パイを使えば、
Linuxのアプリがそのまま動きますが、SIMカードを入れて、携帯電話のネットワークを利用したり、
GNSS(GPS)のデーターを利用するのも、アダプターカードの追加が必要だったりします。
アンドロイドのタブレットと、Chromebookが融合して、軽量で、電池が長持ちして、
アンドロイドのアプリもPCのアプリも稼働するデバイスが発売されると、
アイ・パッドのシェアを奪うようなデバイスになる可能性があります。現在産業分野で、
ウィンドウズタブレットが使われますが、一般にデバイスが高価です。
アンドロイドタブレット位の価格で、マルチウィンドウをサポートして、アンドロイドのアプリもPCのアプリも稼働
するデバイスが発売されれば、かなり優位になりそうです。現在多くのウィンドウズPCでは、x86をルーツとする
アーキテクチャーが使われています。アセンブラーの命令は、逐次実行するというのは、ArmのようなRISC
のプロセッサーも同じです。パイプラインの構成を工夫して全体のスループットを上げる努力は
されていますが、アセンブラーの命令を、逐次実行するという考え方は、50年以上変わっていません。
一方、20年位前は、スーパーコンピューターの代表格だったベクトルプロセッサーやアレープロセッサーは、
行列の要素などを一度に計算できます。モバイルやエッジの領域こそ、ベクトルプロセッサーなどで
一気に計算速度を上げられるメリットが大きい領域かもしれません。
2025年に製品が登場することは無いでしょうが、
コンピューターのアーキテクチャーが全く新しいものになって、ハードウェアーとソフトウェアーの
得意な分野をシームレスに結合して実行できるような製品が最初にモバイルの分野でいずれ
登場するかもしれません。
次に注目しているのが、最近JR東日本が発表した「Suicaアプリ」(仮)のリリースや、
システムをセンターサーバー化するなどの、一連の発表です。鉄道を利用する時に使うものから、
ショッピングや金融など、生活全般をサポートするアプリに移行するものですが、私が、特に注目しているのは、
タッチレスのウォークスルー改札です。ウォークスルー改札は、モバイルSuicaの通信機能を使って、
床や壁に埋め込んだ通信機器とデーターをやりとりする改札が技術展示会で紹介されたことがありますが、
今回の発表のものは、位置情報を利用するというもので、くわしい仕組みはまだ発表されていません。
しかし、移動中の位置情報を利用すると、現在の改札機のみを利用するタイプでは、判別不可能な、
どのルートを利用したかの判別が可能になります。例えば、大井町と新木場の間は、
東京臨海高速鉄道りんかい線を使ったか、京浜東北線と京葉線を使ったかは判別できないので、新木場の駅で
改札を通る必要があります。りんかい線から、京葉線に直通する電車はありません。将来、羽田空港から、
東京ディズニーランドがある舞浜の駅に直通する電車が計画されていますが、移動中の位置情報を利用する
仕組みが必要になります。GNSS(GPS)には、衛星から情報を得るモードとネットワークから情報を得る
モードがあります。地下鉄に乗っていると、駅を通る度に、位置情報が更新されるのは、その地下鉄の駅に、
ネットワークモードの位置情報を提供する仕組みがあるからです。
これと同じように、駅にネットワークモードの位置情報を提供する仕組みを設置して、携帯のアプリに
移動経路を記録するのかもしれません。ネットワークモードの位置情報を提供する仕組みは、どのような
位置情報も提供することができます。これは、位置情報を利用するアプリを開発するときに、世界中を旅行して
ディバッグしなくてもよいようにするための仕組みです。ただし、フェイクの位置情報を一般に提供して、
位置情報を利用するシステムを混乱させることは禁止されています。一般の位置情報のほかに
追加の情報を提供する仕組みは使えるのかどうかよく知りません。タッチレスの改札をブルートゥースや、
WiFiを使って行うことは技術的には可能です。とくに超広帯域無線通信規格(UWB)は、障害物の影響を受けにくく
データの転送速度も速いです。ブルートゥースは瞬間的にペアリングするのが苦手です。
(あるいは、私だけ、ブルートゥースに嫌われているのかもしれません)また、ブルートゥース、WiFiともに、
利用者がオンに設定するのを忘れていると機能しません。改札の付近だけ、特別の情報を追加した
位置情報を提供することで、GNSS(GPS)のみで実現するほうが信頼性が高いかもしれません。
タッチレスの改札を実現するためには、現在の改札機で運賃の計算をするしくみから、
サーバーで計算する仕組みに変更する必要があります。そのためにはサーバーと通信できる仕組みを
設置する必要がありますが、鉄道会社の設備投資の面では有利な面があります。
まず改札機が不要になります。改札機は1台、1,000万円以上で高価です。きっぷが通るように
する機械機構も大変ですが、各駅からの料金表を改札機が備えていて、タッチされると次の人がタッチするまでに
瞬時に計算して、カードから引き落とす必要があります。
新しい駅が増えると、すべての改札機の料金表を更新する必要があります。料金表のサイズに限度があるので、
Suicaエリアでも、東京から仙台のようにエリアをまたいで利用することはできません。
そして、カードに前払いでチャージしておく仕組みでないとなりたちません。
サーバーで計算する仕組みにすれば、前払いでもクレジットカード払いでも、サーバー経由で対応できます。
それから、タッチレスの改札を実現するためには、何も持たずに無視して通る人への対策も考える必要があります。
それとあわせて、一人の人が、個人用の携帯と、業務用の携帯に、Suicaアプリを導入している時、
どちらから引き落とすかをどうやって制御するかも考えなければいけません。
一方で、信頼できる移動経路を記録する仕組みができれば、感染症の感染の追跡にも使えるかもしれません。
COCOAは、コロナ禍の最中で、ソフトウェアの更新が行われていなかったなど、非常に不評でした。
しかし、感染症全般として、人と人との接触を検出して、どのような経路で感染が広まったかを調査することに、
意味があるのかないのかは、医学的に冷静に考える必要があります。積極的疫学調査など、コロナ禍で、
混乱があって効果がでなかったとしても、そのような目先のことだけでなく、
根本的にどのような経路で感染が広まったかを調査することに意味があるのか無いのかの議論をおこない、
もし、調査するとしたら、次に感染症が問題になった時ではなく、日頃からインフルエンザなどで、
使ってみることが大事です。駅だけでなく、ショッピングセンターなど人が集まるところにも、
特別の情報を追加した位置情報を提供することが可能なら、人の動きをサーバーで追跡することができます。
プライバシーの保護とも関連して、技術と使い方を確立しておく必要があります。
COCOAが失敗したので、システムも関連する資料もすべて廃棄し、次の感染症の時に
新たに予算をとって、新しいシステムを開発するというような業務のやり方では、お金がかかるだけで、
効果はえられません。民間も行政もデジタル化の時代にあわせた業務のやり方に変える必要があります。
そしてもうひとつ注目しているのが、慣性センサー(IMUセンサー)です。MEMSタイプの加速度センサー
やジャイロセンサーは、携帯電話などで広く使われています。2024年に、日本のふたつのメーカーから、
潜水艦にとりつけられるほどの精度の慣性センサーが発表されました。
どのくらい精度が違うかですが、ジャイロセンサーで、実際は、元の角度にもどっているのに、
センサーが回転していると判断してしまう、バイアス安定性という指標がありますが、
0.4deg/hというような値です。これがMEMSタイプのセンサー単体では、0.4deg/secというような
値になります。つまり1時間測定を続けて、1秒分のずれしかないという高精度です。
この位高精度になると、地球の自転にともなうコリオリの力の大きさを測定できるので、方位センサーとして
使用することができます。携帯電話の磁気センサーがまわりの機器の電磁気の影響で、毎回8の字型に回して
キャリブレーションしないと、単純な方位磁石程の精度が確保できないことがあるので、
確実な方位センサーが得られることは貴重です。
高精度な、加速度センサーとジャイロセンサーがあると、一度確実にどこにいるかを特定すると、
一日じゅう衛星測位システムが使えなくても、カーナビが機能するようになります。
また気圧センサーを使えば、高度の変化はかなり正確に測定できますが、その日の気圧でキャリブレーションする
必要があります。場所と高度が事前にわかって変化しないところを一度通れば、建物のなかでも、
地下でもナビゲーションが可能な時代がきます。
発表されただけで、まだ実際に製品を見たことはありませんが、IoTデバイスがシリーズで販売されていて、
中心となるプロセッサーが、6,000円位で、通信販売などで販売されているので、
個人でも潜水艦にとりつけられるほどの精度の慣性センサーが入手出来る時代になりそうです。
30年位前に、モバイルを中心とする領域にIT技術の関心が移ると言われた時は、もっぱらホスト・コンピューターの技術が
終焉を迎えるという視点で語られました。しかし今、AIの技術やデーターセンターが無くなると思っている人はいません。
Suicaアプリも、現在の改札機で運賃の計算をするしくみから、サーバーで計算する仕組みに変更することで、
実現可能になります。そしてその時、サーバー側で考慮すべき事があります。
関連データベース(RDB)の技術は50年位前に開発されて、今もいろいろな場所で使われている技術ですが、
整合性が確保されたデーターを保存する機能は共通だとしても、レジで会計が行われる度に記録するような
トランザクションの処理が得意なデーターベースと、Suicaの移動データを記録した大量のデーターを統計的に
処理するアナリティクス処理が得意なデーターベースがあって、両方が得意というものがなかなか存在しないというのが、
大きな問題です。改札を通過したというイベントが発生したごとに発生するトランザクションを処理するシステムと、
それを地域毎にまとめて、会計システムに入力し、全社的な連結財務諸表を作るシステムまで、
全社的なシステムをどのような構成にするかが大きな問題になります。
行政システムでも同じ課題があります。まず徹底すべきことは、サーバーシステムは、
クライアントから要求があったことに遅滞なく対応するシステムだということを、システムの技術の面でも、
業務の遂行のプロセスでも、関連するすべての人が理解することです。
政治資金の裏金問題の進展を見ていると、100万円単位の修正で、寄付者の名寄せが出来なかったというような、
事務的なミスかと思われるような案件と、50億円単位の政策活動費などがごっちゃに議論されていて、
何も明らかになっていないという印象です。
会計処理の誤謬と不正は別のものです。しかし、誤謬のない、品質の高い会計処理を行うことで、
不正の実行を困難にする効果があります。
「公開方法工夫支出」というようなとらえどころのない議論に時間を費やすのではなく、
これが会計処理業務のディジタル化のお手本だというような仕組みを、与野党ともに検討する必要があります。
所得税減税の議論も選挙が近づいてくると、減税の議論をはじめるというような人気取りではなく、
税金、社会保障の保険料、年金を一体にどのような仕組みにするかの全体像を議論する必要があります。
国民年金保険料の未納率が20%を超えていますが、マイナンバーを税務とあわせて年金の管理にも使用することにして、
保険料の未納が許されない代わりに、消えた年金も完全になくなるまで明らかにするなど、
ディジタル化の恩恵をいかに生活で実感できる仕組みにするかを考える必要があります。
それにくらべて、今回の与党の税制改正大綱で、所得税では基礎控除と給与所得控除を計10万~20万円引き上げるが、
住民税は基礎控除を据え置くというのは”せこい”です。給与所得が120万円程度の人は、住民税の負担が所得税の
負担の3倍以上で、しかも2025年分の住民税の徴収が始まるのは、2026年5月からで、
皆が忘れるだろう、あるいは覚えていても、当分選挙がないからというのは、本当に、”せこい”です。
生成AIでコーディングの品質は向上すると思います。コーディングにとりかかるまえに、機能仕様書やモジュール仕様書
を作成しますが、複数人で開発する際は必要ではあるもののあまり役に立っていなかった面がありましたが、
生成AIが理解して正しいコードを出力できるというのが、ひとつの基準となって、仕様書の品質が向上します。
機械の図面があれば誰でも同じものを作ることができるように、誰でも正しいコードを出力できる仕様書の
作り方が定着し、ソフトウェアー部品表の普及とともに、IT技術の話題の中心が、
生成AIやデーターセンターになるにせよ、モバイルの領域になるにせよ、全体の品質が向上すれば良いと思います。
そのためには業務手順の品質が向上するのが前提条件です。
「公開方法工夫支出」を定義するにあたって、どのような工夫が必要か、生成AIにたずねてみると、
業務手順の品質が向上するかどうかは疑問ですが、
行政や業務のディジタル化が、役人の天下り先を用意する関連機関への予算配分になることなく、
生活のいろいろな場面で、多くの人が利便性の向上を実感できるものになる必要があります。