各種のコラム -- 3ー152 「103万円の壁」
2024年11月10日
3ー152 「103万円の壁」
10月の衆院選では、所得税が課税される「年収103万円の壁」のボーダーラインを178万円に引き上げることで、
特にパートやアルバイトの人の「手取りを増やす」ことを訴え、国民民主党が議席数を増やしました。
「年収103万円の壁」問題については、自民党税制調査会でも議論され、税制改正大綱に盛り込まれるでしょうが、
マスコミの取り上げ方などを見ていて、財務省ではすでに、140万円程度に引き上げることを落とし所に
する考えをまとめていて、これにそって議論が進んでいるように思えます。(個人の感想です、まったく根拠は
ありません)
「年収103万円の壁」問題に関連して私が感じる3つの疑問についてまとめます。
1つ目は、年収103万円の壁は、所得税の「基礎控除額」と「給与所得控除額」の合計なのですが、
どちらをどれだけ変更するかの議論が、なぜ出てこないのか?
どちらが変更になっても、パートやアルバイトの人の手取りには大きな違いはありません。
しかし、所得税の税法の観点からは大きな違いがあります。
「給与所得控除額」は各種所得の計算のうち、給与所得の額を計算する時に控除される金額です。
年金所得であれば、「公的年金控除額」が控除されます。つまり、「給与所得控除額」が変更になっても、
年金所得額の計算や、個人事業主の事業所得額の計算には影響ありません。
一方、「基礎控除額」は、各種所得の額を合計して、総所得金額を計算した後、所得控除金額を控除して、
課税総所得金額を計算する時、総所得金額から雑損控除額を控除した金額が、基礎控除額を上回る人は、
誰でも控除される金額です。上回らない人は、課税総所得金額がゼロになります。
給与所得者で、年収103万円以下であれば、課税総所得金額がゼロになり所得税は課税されません。
「基礎控除額」が増えると、年金所得者や、事業所得者などすべての人の所得税の納付額が下がります。
「基礎控除額」の変更か「給与所得控除額」の変更かは、もっと議論が進んでから出てくるのではないかと思います。
「基礎控除額」は社会で生活するうえで必ず必要となる最低限の金額を想定したものなので、これを増やすということは、
配偶者控除額、扶養者控除額(基本 38万円 諸条件で額は異なる)も増やさないと釣り合いがとれません。
結局、「給与所得控除額」55万円を最低賃金の増加額にあわせて、1.7倍程度にすることになると、48万円とあわせると
140万円程度になります。パートやアルバイトの人など、所得が低い人の手取りを増やすという
趣旨と合致します。ひょっとすると、税収の不足を補うために、高所得者の「給与所得控除額」(上限195万円)
の引き下げもあわせて行われるかもしれません。
2つ目の疑問は、130万円の壁の扱いです。
年収103万円の壁だけでなく、社会保険料に関して、106万円の壁や130万円の壁があることは、
よくマスコミで取り上げられています。そして、厚生年金保険料などの社会保険料を払えば、給与の手取りは減るが、
将来、厚生年金が受け取れるので、皆が厚生年金保険料などの社会保険料を払うことにしましょうという
論調のコメンテーターもいます。しかし、あまり具体的にとりあげられないのが、従業員数が50人以下の企業に雇用される
人で、社会保険の加入要件を満たさない人は、配偶者の扶養から外れるため、
国民年金の第三号被保険者から第一号被保険者になり、国民年金保険料が発生することです。また、国民健康保険の保険料負担も発生します。
国民年金の第三号被保険者であれば、国民年金保険料を支払わなくても、将来、国民年金を受け取ることができます。
この場合、130万円の壁は、国民年金保険料などの支払いが発生して、手取りが減るだけです。
106万円の壁は、従業員数(厚生年金保険の被保険者数)が101人以上の企業に雇用される人に適用されていたのが、
2024年10月以降は対象となる従業員数が「101人以上」から「51人以上」に変更になったばかりですが、
すでに厚生労働省から、これを撤廃すべきであるという発言がありました。
103万円の壁を140万円の壁に変更することで、130万円の壁がじゃまだという論調を広めて、
従業員数にかかわらず、厚生年金保険料などの社会保険料を払うほうが良いというような、
会社負担分を含む社会保険料のステルス値上げが画策されているのではないかという疑問があります。
第三号被保険者は、国民年金保険料を支払わなくても、将来、国民年金を受け取ることができることがよくとりあげられますが、
専業主婦で、配偶者の所得が高い場合、所得税の税率が高くなります。働き方の多様化にあわせて、
所得税の計算に5分5乗方式や2分2乗方式を取り入れることが一時話題になりましたが、その後
引き続いて議論されている気配はありません。最終的にどのように決まるとしても、
社会保険料の実質値上げをステルスで行うような方法は良くありません。各種の課題を整理して、
オープンな議論をおこなうべきです。
そして、3つ目の疑問は、立憲民主党や日本維新の会が提案していた、給付金付き税額控除が
なぜ話題にならないのかということです。
昨年、「増税クソ眼鏡」が話題になった頃、所得税3万円、住民税1万円の税額控除と納付税額がこれに
達しない人への給付金の支給が決定しました。事務手続きが煩雑になり、非常に不評でしたが、私は、基本的な考え方には
賛成でした。ただし、実施方法が最悪でした。2023年12月の年末調整と2024年2月3月の所得税の確定申告で
所得税の4万円の税額控除と給付金の支給を行うべきでした。煩雑な事務手続きにしたのは、地方自治体や納税者が不満を
持つように、財務省が企画したのではないかと思います。(個人の感想です)
住宅ローン控除などを想像すればわかるように、税額控除は、納税者が減税の恩恵を直感的に理解し易い、
減税手段です。それに対して、財務省が期待するのは、所得控除のような、社会保険料の全額が所得税法上の
所得控除となって、どこがどうなっているのかわからないような複雑な仕組みを維持することではないかと思います。
マイナンバーと行政のデジタル化の恩恵を、一番受けられるのが、納付税額の計算ではないかと思いますが、
一回きりの減税など、デジタル化のトラブルを最大にするような政策をやめて、合理的でシンプルな
徴税制度を継続的に実施すべきです。
自民党1強といわれた国会が、野党を含めた、議論を行う場所になったとしても、議論の内容が、
財務省が作成した作文に従ったものであれば、有権者にとって意味がありません。
それではどうすればよいかと言うと、有権者、納税者自身が賢くなることです。
消費税の減税を強く主張する人がいます。
高額の家電商品を買った時のレシートを見て主張しているのかもしれませんが、それなら、
そのような人に質問があります。
所得税や社会保険料などの租税公課の項目は非課税です。それから、居住用の賃貸住宅の賃貸料も非課税です。
消費税の減率が仮にゼロになったとして、どれだけ支払い対価の額が減少するのか、本当に計算したことが
あるのか、聞いてみたいです。万が一解雇されて職を失った時に、高額の家電商品を買おうとは思いません。
本当に困った時に、消費税の担税額がゼロになったとしても、支払い対価の減少額はわずかです。
本当に困った時に必要なのは、給付金です。その時に初めて生活保護の申請を行うのではなくて、
毎年行っている所得税の納付の手続きをおこなえば、給付金をえられるようなシンプルな制度が望ましいです。
さらに質問があります。中古マンションのリノベーション物件の販売が好調ですが、
中古マンションを購入する時、消費税額がいくらになるか本気で考えているのか聞いてみたいです。
マンションの場合、土地は非課税です。しかし、中古マンションのリノベーション物件のように、
不動産事業者が所有する物件を購入する場合、建物部分の販売対価に対して、消費税が課税されます。
一方、中古マンションを仲介物件として購入し、リフォームを行った場合、中古マンションの建物部分は
所有する個人が購入する人に譲渡するものであって、事業者が事業として資産を譲渡するものではないため、
消費税は不課税です。仲介手数料と、リフォーム代金に対して消費税が課税されます。
比較検討して、支払総額にそれほどの違いがなかったとしても、比較検討することが無駄だったということには
なりません。
将来、購入したマンションを売却して、引っ越しする場合、
マンションを売却したことに対して、譲渡所得に対する所得税が課税される可能性があります。
土地部分は、売却対価から、購入対価、購入手数料、登記の際の登録手数料、売却手数料などを控除した額に対して
所得税が課税されます。一方建物部分は、売却対価から、購入対価、購入手数料、登記の際の登録手数料、
建物の減価償却累計額、売却手数料などを控除した額に対して所得税が課税されます。
そして、建物の減価償却累計額、すなわち所有している期間についての減価償却費を計算する時の、基本になる、
法定償却年数について十分に検討しているかという質問があります。
じつは、居住用建物では、購入時に築何年目であろうと関係なく、マンションの場合、
購入した時点から法定耐用年数70年に相当する
償却率の「0.015」を用いて「建物購入額の5%」となるまで償却できることになっているので、
法定償却年数について十分に検討する意味はありませんが、、居住用建物として使用するのではなく、
副業の時代なので、賃貸物件として事業用資産とする場合には、中古資産の法定償却年数について十分に検討する価値が
ある場合があります。リフォーム業者などが、その中古資産を事業の用に供した時以後の耐用年数を見積もる方法として、
その資本的支出の金額がその中古資産の再取得価額(中古資産と同じ新品のものを取得する場合のその取得価額をいいます。)
の50%に相当する金額以下である場合の、計算式を教えてくれるかもしれませんが、
これは簡便法により算定する場合の計算式であって、原則法は使用可能期間の合理的な見積りです。
だから、不動産所得の最初の確定申告を行う前に、不動産所得と他の給与所得や事業所得などを
含めた確定申告書と、将来、資産を売却する時の譲渡所得の確定申告のシミュレーションをおこなうことは
検討する価値があります。このようなことを誰でも簡単にできるようにしているのが、IT技術の進歩です。
とりあえず賃貸事業をはじめて、2年目以降に、償却年数について検討することはできません。
合理的な理由がある場合をのぞいて、一旦決めた、償却年数を変更することはできません。
居住用住宅の3,000万円控除などの規則もあるので、売却時の税率などを検討することに金銭的意味が
どれほどあるかはケースバイケースですが、譲渡した年の1月1日現在の所有期間が5年を超える土地や建物を売ったとき
の長期譲渡所得の際の税率は20%に対し、短期譲渡所得の際の税率が39%になることや、
長期譲渡になる条件が、所有期間ではなく、譲渡した年の1月1日現在の所有期間であることなど、
税法の理解には役立ちます。
このコラムを読むと、財務省の人に「恨み」がるのかと思われるかもしれません。
じつはそうではありません。しかし、財務省の人は、まじめに税法の仕組みを検討しているつもりでも、
長年の習慣で、結果的にそれは、複雑な給付金などの仕組みをつくって、財務省を退職した人に有利な事業遂行の機会を
提供しているだけかもしれません。有権者や納税者の人の立場になって、政治家が行動してくれることが望ましいですが、
そのためには、有権者や納税者自身も賢くなって、何が社会全体にとって有益な事かを皆が考える必要があります。