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2024年8月1日
3ー144 日本でファブレスは広まるか???
日本にもファブレスといわれる企業があります。任天堂やユニクロが有名です。
製品の企画や材料の調達まで自社で行う場合でも、製品の製造は自社では行わず、工場を持っていたとしても、受け入れ検査
など、限られた事しか行いません。
製品の製造は、技術的に外部発注でも可能で、製造設備などに投資するより委託するほうが、経営的に好ましいと考えられる
場合です。
IT業界では、工場でコンピューターを製造していた時代は、工場のそばに研究所があって、プロセッサーの
設計なども行っていましたが、円高になって、オフショアと呼ばれる、工場を東南アジアなどの海外に移転する
ビジネスが盛んになると、急速に研究所の技術レベルが低下したという企業がいくつかありました。
今回ファブレスについて、もう一度、考えてみようというきっかけになったのは、
日経コンピューターの最近の記事で、Arm が今までの、特定の半導体プロセスに依存しない
RTL(Register Transister Logic)という形で製造業者に情報を提供していたのを、
Physical Implementation という形でも提供することを公表したということがあります。
半導体の製造を、おおまかに設計、開発、生産にわける時、
ISA(Instruction Set Architecture)を公開するというのは、
機能仕様書あるいは要求書を公開するようなイメージです。現在多くの場合、基本設計を終えて、
論理的な回路の動作のタイミングの検証を終えたRTLの形で公開しています。それをさらに一歩進めて、
電力消費や実際のタイミングの詳細設計や、製品の開発を終えた、素子の配置も確定した製造用の図面も添えた形で
公開し、製造業者は指示通りに製造するという形に移行していきます。
実際に製品を製造していないのに、どうやって、詳細設計や製造用の図面の開発を行うのだろうというのが、
大きな疑問です。日本で半導体の設計を行っているというと、三角形やクラゲの断面のような記号を
えんぴつで線で結んだ手書きの図面を横において、はんだ付けをしているようなイメージがありますが、
実際は、HDL(Hardware Description Language)で書いたプログラムを
もとに、回路の動作のタイミングをシミュレーションする開発ツールを使って開発していきます。
そして、Behavioral Simulationから始めて Post−Implementation
Timing Simulation へと進んでいけば、回路の規模や消費電力や回路の動作のタイミングの
条件が厳しい箇所などをツールがまとめてレポートを作ってくれます。
実際に、製品を製造していないのに、どうやってこのようなツールを作ったのか、私は詳しくは知りません。
ファブレスで工場が無くても、詳細設計や製造用の図面まで開発することができる技術力が、
ファブレスのビジネスで成功を収める鍵になります。
この半導体を設計するツールは、EDA(Electronic Design Automation 電子設計自動化)
と呼ばれ、Armなどの半導体設計会社とは、別の会社がつくっています。ケイデンスなど有名な会社は
ほとんどアメリカの会社です。EDAツールの会社は、Armなどの半導体設計会社とも、TSMCなどの
ファウンドリーの会社とも密接な関係を構築しています。
スマートフォーンでは、アップルもグーグルもファブレスと言われていましたが、自社開発の専用のハードウェアー
しかサポートしないアップルと自社もピクセルという端末を販売していますが、色々なメーカーのハードウェアー
をサポートするグーグルでは、やや考え方が異なります。
アップルは製造設備を所有しており、試作品を作り加工方法なども研究しているようですが、大量生産は
外注しています。日本の機械装置のメーカーで、オフショアビジネスで、工場を海外に移転した後、再度、日本国内に
マザーファクトリーと呼ばれる工場を設置し、設計が完了した製品の試作を中心に製造しているところがあります。
アップルと類似する考え方ともいえます。アップルやグーグルは、携帯端末用のOSを独占しているのが強みだといわれます。
しかし、それだけでなく、ソフトウェアーの配布をほぼ独占したサイトで行っていることも、大きな強みです。
日本のガラケーが衰退したのは、全面画面の端末に負けた要素もありますが、
携帯電話網を所有している会社が、エコシステムのキーストーン種という考え方が通用しなくなっことも、大きな理由です。
携帯メールや国内・他事業者のユーザーとのメッセージ交換ができなかった、昔のショートメッセージサービスが
淘汰され、アップルやグーグルを中心とする世界になり、メッセージの交換手段が、SNS中心の時代になり、
国内の携帯電話事業者は従来通りサービスを継続していますが、金融・流通などのサービスを統合する形に進化しています。
日本の電話網の会社は、固定電話でも、ISDNなど、電話線をコンピューターネットワークとして使うという
試みを行いましたが、ほとんど広まりませんでした。速度が遅かったのもおおきな理由ですが、
デジタル交換機の技術とユーザーがデジタル技術をどのように利用するかについての見識は別物だったようです。
21世紀になって、それまでオンプレミスのホストコンピューターを使うやり方から、クラウドを利用するやり方に
変わりました。アマゾンやグーグルも、クラウドのデーターセンターで使うハードウェアーの製造は行っていないので、
ファブレスに分類されることがあります。ただし、20世紀の日本のインターネットサービスプロバイダーのような
市販品の通信機器を購入してサービスを行っているのとは、事情が異なります。
通信サービスだけでなく、各種のアプリケーションを提供しており、データーセンターで使う専用のハードウェアー
を設計、開発しています。製造は外注しています。そしてユーザーの利用状況については、
20世紀にホストコンピューターを製造していたメーカーと比較してはるかに詳細に把握しています。
オンプレミスのホストコンピューターの時代は、納品が完了したシステムは、ユーザーが所有するものなので、
メーカーは契約した保守作業の時などを除いて使用することはありません。
すべてのユーザー固有の構成をメーカー内に再現することはできないので、トラブルが発生しても
なかなか解析できません。デジタルシステムの不具合は、1,000台のシステムの999台では、全くエラーが起きなくて
1台でだけ常にトラブルが発生するような不具合が多くあります。製品が不良ということではなく、
利用する環境や設定がユニークなためにこのようなことが起きます。
クラウドのシステムであれば、データー処理の中核はすべてデーターセンターで行われているので、
十分に解析することができます。また、問題の解析中は、他のトラブルが起きない構成のものでサービスを
継続することができます。
ファブレスというと技術の継承が課題になることが多いのですが、クラウドの場合は、データーセンターで使う
ハードウェアーの製造は行っていなくても、データー処理の業務の核心はすべてデーターセンターで行っているので、
むしろアプリケーションを含めた業務のノウハウや技術は、クラウド側に蓄積していき、
ユーザー企業側で、IT技術のみならず業務フローに関する知識も失われていくことが課題になります。
アマゾンは、eコマースをやっていて、システム関連で苦労したので、それなら困っている企業がたくさんあるだろう
ということで、クラウドサービスを始めました。クラウド側にシステム関連と業務関連の知識を
蓄積することに細心の注意を払っています。ファブレスとは逆ですが、ファウンドリーの会社も半導体などの
ハードウェアーの技術を蓄積していきます。今後は、台湾や韓国に、生成AIなどのクラウドサービスを
行う企業が登場する可能性もあります。
クラウド側にシステム関連と業務関連の知識さらに、機密情報の保存もおこなわれる反面、クラウドを利用するだけの
側からは、ノウハウが失われていきます。
マイナ健康保険証をみていると、総務省や厚生労働省の人は、本当に使っているのか疑問がわいてきます。
マイナンバーカードをケースからとりだして、読み取り機にセットして、顔認証をして、個人情報の提供に同意する
のを病院に行く度におこなうのを不便だと感じないのが不思議です。
現在の月に一度保険証を提出するだけのほうが便利です。さらに病院の診察券は無くなりません。
マイナンバーカードで本人確認が完了するのに、病院側の管理システムと連携していません。
何のために診察券が必要なのでしょうか。
鉄道の顔認証の改札は、何も持っていく必要がありません。これは、顔認証をサーバーに保存したイメージとの比較
でおこなっているからです。これなら便利だと感じる人が出てきます。便利だと感じる人が自分の
意思で何を使うかを決めるのが大原則です。
マイナ保険証を使うと、過去の病歴を参照することが可能になるのがメリットといわれます。
しかし、この仕組みは公開されていません。過去の健康保険証の番号とマイナンバーを連携する必要があります。
現在の健康保険証の番号とマイナンバーの連携に問題が発生して、対策として、必ず現在の勤務先に
マイナンバーカードを持参して、読み取って、紐付けの作業を行うことになりました。
しかし、過去の勤務先に対しても同じことをするのか、過去の勤務先が遠隔地にあったり、
すでに法人が解散している時の取り扱いも規定しないと、過去の病歴の参照は機能しません。
このような重要な機能の仕組みを公開することなく、マイナ健康保険証を推進することに無理があります。
マイナンバーカードを持参して、公共交通機関に乗車する時読み取る実証実験も行われていますが、
マイナンバーカードのNFCはType−Bです。Suicaなどの交通系のNFCはType−Fです。
広く広まる方法とは思えません。
今後、日本でファブレスがもっと広まるかどうかは、誰もわかりません。しかし、21世紀になって、
アメリカのIT企業が大きく成長し、その多くの企業がファブレスだったのは事実です。
そのやり方を取り入れるかどうかは別にして、アメリカのファブレスのIT企業の強みを分析する必要があります。
およそ20年前に、アメリカの企業で不正が発生し、SOX法が成立し内部統制の仕組みが改革されました。
それを受けて、日本でも、J−SOX法(日本版内部統制報告制度)が制定されました。
しかし、日本版内部統制報告制度を取り入れ、機関設計を委員会設置会社に改め、外部取締役の数を増やした
いくつかの企業で、不正が発生しました。同じ頃に、司法試験や公認会計士試験の制度も改められましたが、
国税庁に長い期間勤務した人は実質的に退職後、税理士登録ができるという制度は温存されました。
アメリカの公認会計士は、IRSという国側の機関に対して、民間の側の専門家として、
納税のアドバイスを行います。依頼する側は、安全サイドから、国税調査で問題を指摘されるリスクは高まるが、
納付税額が少なくなるサイドまで、自分の希望を伝えて、公認会計士のアドバイスを受けることができます。
アメリカからみると、民間の側の専門家として、納税のアドバイスを行なう人が、国税庁の退職者というのが、
なかなか理解できない制度です。多くの人が源泉徴収と年末調整で納税を完了し、
確定申告(タックス・リターン)を行わないのも、なかなか理解できない制度です。
企業のファブレス化を進めるのも、工場をたくさん作る日本独自の道を進む方法も、どちらもOKですが、
表面的にアメリカのやり方を取り入れて、実質的には昔からの日本のやり方を続けるというのは
絶対に行ってはいけません。日本独自のやり方を進めるなら、検討の過程を明らかにし、
なぜ、日本独自のやり方が優れているかを明らかにしなければなりません。
20世紀に見られた、日本は特別な国だからという物事の進め方は21世紀には通用しません。
アメリカでも不可解な事は多く起こっていて、選挙結果を認めなかったり犯罪容疑で告訴されている人が
大統領候補になっています。日本で政治資金の不正が問題になっても、与野党が入れ替わる気配が
ないのは、イギリスからみれば不可解かもしれません。
IT技術に限れば、アメリカやイギリスのArm が優れています。IT技術の利用についても、
日本には課題があります。20年ほど前、「今、メールを送った!」と電話する人が話題になりましたが、
LINEのやり取りをいつやめるか、句読点を使うなと議論している人は、私には、メールを送ったと電話する人
と大差ない人に見えます。日本独自のプッシュ型で端末に通知する携帯メールも世界標準には
ならなかったし、(パソコンのメールやスマホのメールの通知は、頻繁にサーバーに問い合わせて実現しています。)
詐欺メールは別のフォルダーに分類されるという、フリーメールで当然となっている機能も、
日本のプロバイダーのメールには、装備されていないことがあります。
日常使うITシステムのレベルも含めて、アメリカのIT企業の強みを分析して、工場を建てるのが
日本に最適な方法だとしても、マイナンバーカードが日本独自のシステムで民間の競争相手はいないとしても、
つねに論理的に、何が世界的に正しいかを明らかにしていく必要があります。
追伸)東海道新幹線でトラブルが発生しました。
特高圧ケーブル(特高圧引き通し線)が破損し、停電で3時間近く炎天下で列車が止まるというトラブルがありました。
同じトラブルは、列車が駅に停まっている時には絶対起きないのでしょうか?
電車は車体に高圧の電気が流れても、中にいる人には問題がないようなっていますが、
駅で車体の近くに人がいれば、例え一瞬でも、感電するのではないかという懸念です。
さらに、保守用の車両が衝突して脱線するというトラブルがありました。ヒューマンエラーではないそうです。
衝突で車両からオイルが漏れたといわれていますが、車両の故障で衝突の前からオイルが漏れていた
可能性はないのでしょうか?
鉄道のトラブルは、素人が心配する程度のことはもちろん、もっと詳細に原因の分析が行われます。
マイナ健康保険証の紐付けの問題も、トラブルが起きたことの責任はともかくとして、
完全に問題が解決したことの確認と、再発防止策は、同じレベルでの検証が必要です。