各種のコラム -- 3ー139 紙の保険証を廃止すると、行政のデジタル化は失敗する?!!
2024年6月1日
3ー139 紙の保険証を廃止すると、行政のデジタル化は失敗する?!!
現行の紙の保険証は今年中に廃止され、マイナ保険証になります。
しかし、そのやり方には問題があります。まず具体例を3つあげます。
1.ある都市の2024年度の特定検診のお知らせを見ました。 受診の際には、
特定検診受診票、健康保険証、自己負担金を持参してくださいと書いてあります。
マイナ保険証に移行するにあたって、まず現行の保険証を廃止し、民間の病院にマイナ保険証の読み取り機の設置を
義務付け、最後に市の健康福祉部、保健センターが対応するという考え方に問題があります。
マイナ保険証を推進したいのなら、まず行政機関が率先して広報し対応し、課題の洗い出しをしなければなりません。
2.高齢者福祉施設でのマイナ保険証(マイナンバーカードとパスワード等)の管理が問題になっています。
事情を詳細に観察すると、福祉施設の複数の職員が、高齢者が誰かを知っているのだから、
本人確認は不要です。収入資産状況などによって、自己負担割合が変わりますが、それはマイナポータルで
わかるのだから、福祉施設の管理者にプッシュ型で通知すれば、保健医療は可能です。
マイナ保険証による受付の手続きが重要なのではなく、従来の健康管理組合ではできなかったことが、
マイナンバーを付与することで、マイナポータルのサイトでできるようになることに、デジタル化の意義があります。
このような、本来の行政のデジタル化の意義を考慮せず、一部の手続きを押し付けるやり方に問題があります。
3.これはマイナ保険証に限らず、マイナンバーカード全般の問題ですが、会計検査院の検査結果によると
マイナンバーシステムには2149億円の国費が投じられており、さらに、マイナンバーカードやマイナポータルなどの
関連事業も含めれば、整備には既に1兆円を超える莫大な国費が使われたそうです。
マイナンバーカードの事業の売上や、行政コストの節約額は公表されていませんが、仮に売上原価が1兆2千億円
売上総利益率が40%とすると、売上は2兆円です。
マイナンバーカードを取得し、マイナ保険証と公金受取口座を登録した人には、ひとり2万円のポイントが付与
されました。ポイント付与のためのおよその予算額は2兆円です。
2万円の商品を買ったら、2万円のポイントが付与されるというのは、民間企業ならありえません。
この商品は売れないと判断して、一度立ち止まります。
現行の紙の保険証を廃止し、強制的にマイナ保険証に移行し、法律的には強制できないので、保健医療継続のための
新たな資格者証を発行するという、官僚組織の一度決めた手続きは変えない、「無謬(むびゅう)性の原則」に基づいた
行動を続けていると、やればやるほど「わや」になって、行政のデジタル化は失敗します。
従来の住民基本台帳に基づいた管理では、市町村毎に管理方法が異なり、しかも健康保険組合や徴税システムとの
連携ができないという課題があったのに対し、マイナンバーを付与することで、ひとりの人を中心とする視点から見て、
何が必要かが明らかになり関連する情報が入手可能になるという、利便性の高い行政業務をどのように施行するべきかという
原点に戻って検討する必要があります。
6月から始まる、所得税減税についても、同様の問題があります。「増税、くそめがね」は良くないので
「減税 うそめがね」にしようという考え方にはじまり、ほころびが見つかると
「無謬(むびゅう)性の原則」に基づいて手続きを追加したために、複雑な制度になっています。
一例をあげます。令和6年分の所得税に係る合計所得金額が1,805万円を超える人(給与収入のみの場合、
給与収入が2,000万円を超える人)は、定額による所得税額の特別控除の適用を受けることができません。
給与収入が2,000万円を超える人も、業績連動給で現在は2,000万円を超えるかどうかわからない人も、
6月に一旦所得税の源泉徴収額から、税額控除額が控除されます。そして給与収入が最終的に2,000万円を超えた
人は確定申告で同額を納税納付することになります
フリーランスの人や、年金受給者で、公的年金控除額との関係で、所得税の源泉徴収が行われていない人は、
来年確定申告を行うまで所得税減税分の3万円の特別控除の適用を受けることができません。
さらに、合計所得金額は、退職所得金額および山林所得金額を加算したものになります。
2024年に退職した人や、2024年に花粉症になって杉の木を切り倒して出荷した人は、
特別控除の適用を受けられない可能性があります。さらに注意すべき点として、
申告分離課税の所得がある場合には、たとえば株式譲渡所得の場合、損益通算後の金額になりますが、
上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除適用前の金額になります。
マイナ保険証に限らず、医療全般に業務のデジタル化の効果があらわれていないところがあります。
電子カルテは、ほとんどの大規模の病院や、およそ半数の診療所に導入されています。
医療関係者でないので一度も使ったことはありませんが、電子カルテの印象は、診察中に、医師が患者を見ずに
端末に入力しているという感じです。そして、電子カルテのシステムはレセプトのシステムと一体型になっているか、
連動型になっているのに、診察が終わってから会計までの待ち時間が長いという感じです。
そして、医療機関は、審査支払機関へ翌月10日までに、レセプトを提出します。そのために、
月始めは病院の事務の人は忙しいと聞きますが、診察が終わった時点で、有無を言わさず、
レセプトを提出するとまずいことが起きるのでしょうか?
一般に、ITシステムは、データーの入力は不得意な領域です。それでもITシステムを使うのは、
過去のデーターを検索したり、ネットワーク経由で遠隔地のデーターが参照できるからです。
しかし、過去にアレルギーの症状があったことはないかなど、何度も聞かれますが、電子カルテのシステムを使って
過去の時点での病状の説明を受けたことは一度もありません。
毎日のように生成AIが話題になり、使われる半導体ではNVIDIA一強の様相です。しかし、NVIDIAは
最近CUDAのアーキテクチャーをNVIDIAのGPUでしか使えないことにすると発表しました。
競合するAI用の半導体が他のメーカーから登場することを警戒しています。およそ25年前、Intelが
それまで32ビットのx.86のアーキテクチャーを公開していたのにたいし、64ビットのプロセッサー
のアーキテクチャーを非公開にすると発表しました。そして満を持して発表した64ビットのMPUが
大失敗で、それまで一強の様相だったのが、AMDと競合するようになりました。
NVIDIAについても、現在は一強の様相ですが、競合するメーカーがあらわれそうな気がします。
そして、それはやはりアメリカのメーカーではないかと思います。
生成AIの領域で大規模言語モデルが話題の中心ですが、AIは他の領域でも使われています。
気象予想の分野でも、従来の有限要素法で偏微分方程式を解く方法に加えて、
サロゲート(代理)モデルという機械学習で多くのデーターをはるかに短時間で計算できる方法で
値を予測し、予測値が偏微分方程式を満たせば有効な解と判断する方法や、各種の技術分野で、
ニューラルネットワークに、観測値と物理モデルを入力するという、カルマンフィルターのAIバージョン
ともいえるような方法の利用が広まっています。生成AIは、言語や画像のような人間の判断が正しいと
認識されている分野で多く使われていますが、物理の法則が存在するような分野での利用も広まると、
AIの処理が正しいかどうかについて新しい考え方が見つかります。法律も絶対に成り立つ法則ではありませんが、
他の法律と矛盾しないかなど、自然科学の法則に類似する面もあります。政治資金規正法の改正にあたって、
今回の学習でのみ利用することを条件に、リクルート事件以降の30年余りの報道を提供してもらって、
生成AIに、どのような政治資金規正法をつくるのが、これからの30年を失われた30年にしないために
最適かを判断して法律の原文を作って、人間がつくった改正案と比較してみます。AIでは自律型兵器の
問題も深刻な問題です。しかし、民間人の被害は最小にするようになど指示していくと、将来
AIが、無駄な侵略戦争をやめなさいというようになる可能性もあります。
IT技術を開発する能力で、アメリカと対抗するのが容易でないとしても、世界があっと驚くような
話題になる使い方をするというのも、IT技術を社会の課題の解決に活用する上で重要です。
最近、晴天乱気流が疑われる航空機事故が起きました。
主要な空港には装備されているドップラーライダーが航空機に搭載できるサイズになれば、
予測の精度があがるといわれています。ドップラー効果は救急車のサイレンの音が低くなることで経験
しますが、ドップラーレーダーやドップラーライダーは、音波が電波やレーザー光に変わっても、
周波数の変化で動くものを検知すという原理は同じです。そしてカメラで見るだけでなく、動くものを
探知する能力が危機回避に有効であるというのが、ねこ科の動物が視力はそれほどでなくても、
動体視力や暗視能力がすぐれているというのと関連があるのかどうかは知りませんが興味あります。
そして大規模言語モデルについて、ある単語の次にどの単語が続くかが判断の基本で、
生成AIは文法を理解しているわけではないといわれます。受験英語で
I’m looking forward to meeting you in next month.
のmeetingはto infinitive(不定詞)ではなく gerund(動名詞)になるからと
習ったのは何だったんだろうと思いますが、物理学の専門家がAIの領域のエンジニアと協業するように、
言語学の専門家がAIの領域のエンジニアと協業するようになると、結論が変わるかもしれません。
大規模言語モデルだけでなく、医学、生理学の分野も、間違いなくIT技術の利用で大きく進歩します。
ゲノム医療や、希少疾病用医薬品の開発などが進むと言われています。
医学、生理学の分野に限らず、IT技術を利用する時は、IT技術は何が得意でなにが不得意かを
見極めなければなりません。21世紀になってからクラウドシステムが広まり、日常的に検索サイトを
利用するようになりました。検索サイトのように、世界中のデーターや時代を超えた過去のデーターから
広く条件を満たすものを見つけるというのはIT技術がものすごく得意な分野です。そして、検索結果が
1、000件か1,001件かは利用者にとってどうでも良いことだというのも
IT技術が不得意な事が問題にならないという意味で重要です。新幹線の運行管理システムも、
IT技術が使われており、ダイヤにあわせて自動的にポイントを転換するなど、得意な分野が活かされています。
東海道・山陽新幹線は東京にあるシステムで管理されており、九州新幹線はJR九州のシステムで
管理しています。具体的には、博多南の駅がある、博多総合車両所に入るために分岐するポイント
まで、東京にあるシステムで管理しています。JR九州の電車が博多駅に到着しようとしたら、
ホームが一杯だったというようなことは実際には起きませんが、IT技術がそれ程得意な分野ではありません。
遅延が発生した場合の処理などは、東京にある指令所に出向して勤務するJR九州の社員の人がJR九州のシステム
を管理する社員の人と連絡をとって対処しています。
コロナ感染症が万延した時、将来の感染者数の予測が頻繁に発表されましたが、予測が的中したかどうかは、
2021年に、減る要素は何もないと言ったとたんに激減した時などをのぞいてほとんど発表されていません。
誰の予測が当たったか外れたかはどうでもよいのですが、2020年から今年まで、予測はどの程度の精度で
的中するのか、予測が出されてから、医療体制を整備するための時間はどの位あるのかは重要です。
そしてこれらはIT技術が得意な分野です。新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HERSYS)
のデーターがどのように活かされているのかの具体的内容の発表がありません。
行政のデジタル化は、紙の保険証を廃止して、マイナ保険証を強制するというような進め方ではなく、
IT技術は何が得意で、何が不得意かを見極め、業務の品質向上・効率化のために必要な事とすりあわせ
人とITシステムをどのように組み合わせて遂行するかを検討する必要があります。
現状の、IT技術にもくわしくない、現場の業務にもくわしくない人が予算を管理する方法を
続けていると行政のデジタル化は失敗します。マイナンバーシステムには2149億円が投入されましたが、
アクアラインの建設費1兆4000億円に比べるとそれほど多額ではありません。しかし、マイナ保険証
が関係する社会保障関係費は一般会計のなかで単年度で40兆円近い金額です。プロジェクトを実施するために
人・物・金・情報が鍵になると言われますが、IT技術が関係する情報は、プロジェクトのすべてのフェーズで
人・物・金のすべてに関連します。行政のデジタル化には、このようなシステム関連の支出の位置づけを
正確に理解し企画できる人を配置する必要があります。